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王の剣士 七

<第一部>
〜見えない手〜

第五章『落日』


(ヴィルトールじゃあ無かった。ならヴィルトール達は今どこにいるんだ)
 エトムントの負った無残な傷跡が、レオアリスの胸の内に急き立てるような焦燥を渦巻かせた。
 あたかも幾千もの鋭い刃によって、刻みつけられたかのごとき傷跡。
(あんな傷を――)
 レオアリスの部下だ。奥歯をぐっと噛みしめる。
(ルシファーの関わりはもう明白だ。一体何を狙ってる、イリヤを連れ去って)
 そこにボードヴィルは関わっているのか。
(陛下は、もう一里の控えの館に入られたはず)
 もしルシファーがボードヴィルの第七軍を抱え込んでいた場合、王の身に、危害が及ぶ可能性があるのでは無いか。
 鼓動が早まる。
 その焦りを努めて抑え込んだ。
 今、レオアリスが立っている場所は、王の傍ではないのだ。
(陛下のお傍にはアヴァロン閣下や、アスタロトがいる。それにウィンスター大将がルシファーにくみする訳がない)
 ただ、ルシファーがイリヤを利用しようとしているのは確かだ。
(ルシファーは今まで、表立って動かず時期を見ていた。その“時期”が、今日の条約再締結だとしたら――条約の再締結を妨害するのが目的なのか? 西海との関係を)
 だとしたら、イリヤをどう利用するのか。
 “旗印”として――?
「レオアリス」
 はっと顔を上げる。
 ファルシオンの黄金の瞳が飛び込んできた。
 玉座の前に跪いたまま、考え込んでいたようだ。
「大変失礼いたしました」
 跪いた姿勢で居住まいを正す。
 スランザールとベールの視線が自分の上に注がれているのが判った。近衛師団の連絡が何の案件か、その事だろう。
「大丈夫なのか」
 ファルシオンの問いは、レオアリスを案ずる響きがあり、レオアリスは自分を恥じた。
 改めて見れば、黄金の瞳には不安そうな光が揺れている。
 同じ色であっても、王の瞳には見た事のない光だと、そう思った。
 スランザールやベールが補佐するとは言え、僅か五歳の幼い子供が、国王代理という大任を負って不安でない訳がない。
 レオアリスは立てた右膝に置いた手に、力を込めた。
(殿下に、どうお伝えすればいい?)
 ファルシオンにとっては負担の大きい内容だが、しかし最早ただ伏せておけば済む話でも、その段階でもない。
「……殿下、スランザール殿と大公閣下と、少しお話をさせて頂いてもよろしいでしょうか。その後、ご報告をさせて頂きたい事がございます」
「私はかまわない」
「どのような話じゃ」
 スランザールが問い掛け、レオアリスはスランザールへとやや身体を向けた。
 ファルシオンへの伝え方をまだ決めかねていて、束の間言葉を探す。
「バーチ・コリント氏の件です。有力な情報が入りました」
 イリヤの行方が判らなくなった際に殺された、ロカの領事館員だ。
 その名を聞いて核心にいる人物を悟り、ベールが意見を窺うように、スランザールの白い眉の奥に視線を向ける。
 スランザールはゆったりした袖から出した手で、長い髭を撫でた。
「ふむ――その件、殿下の御前で構わぬ。経過と共に簡潔にご説明せよ」
 スランザールの指示にやや驚きつつも、レオアリスは了承を示し頭を下げた。
(殿下に全てお伝えするのは、やはり二日とはいえ、国王代理を担っておられるからか)
 対処には国王代理としての正式な判断と決定が必要だと、スランザールもベールも考えたからだろう。
 レオアリスは慎重に言葉を選んで口を開いた。
「先日、ロカのハインツ夫妻との連絡が取れなくなりました」
 ハインツ、と聞いてすぐ、ファルシオンは驚いた、不安そうな表情を浮かべた。
「あ――」
 兄上が、という言葉を飲み込み、スランザールとベールを見る。
 ファルシオンはこれが、兄という存在を秘密にしたまま話す内容なのか、口にしてもいいのか、迷っているようだった。
「……ハインツ夫妻が」
 ややあってそう言うと、「そのお二人でございます」とスランザールが言葉を添え、ファルシオンは唇を引き結んだ。
 レオアリスが捜索の経緯を説明する間、ファルシオンはじっと瞳を見開き、レオアリスを見つめていた。
 今初めて知った兄の失踪にも、取り乱す事をせず、こらえるようにして耳を傾ける。シメノス河口で発見された隊士の死に触れ、悼ましそうに眉を寄せた。
 状況と対策の説明までを終えると、ベールがまず口を開いた。
「そなたらの判断通り、ボードヴィルか、他の主要な街か、対象は幾つか絞り込めるだろう。規模や兵力、位置的にも、最も基盤となる可能性が高いのはやはりボードヴィルであろうな」
(――大公も、ルシファーが何らかの形でイリヤを利用しようとしていると、そうお考えか。なら事態は)
 レオアリスの考えの先を読むように、ベールは更に言葉を継いだ。
「ルシファーの目的は、陛下御不在のこの時期を見て偽りの兵を起こし、国内に混乱を生む事かもしれん」
 ぐっと胃の奥が重くなる。
 レオアリスが半ば無意識に避けていた仮定を、ベールは易々と口にした。
 国政を担う者として、今が事態を曖昧に評する段階ではないという判断からか。
 いずれにしても、明確に言葉にされれば、イリヤを使用しようとするルシファーの目的は、それ以外には考えられないほど明らかだった。
 イリヤを王位継承者として立て、国内に混乱を――戦乱をもたらす事。
『私は、この国の敵になる』
(やはり、拠点はボードヴィルなのか――?)
 ベールはスランザールへ目を向け、それをファルシオンに移した。
「殿下、まずは抑止として勧告をすべきこと、これは間違いございません。またはそれ以上に踏み込んだ姿勢を示すか、いずれにしても早急に対応が必要でしょう」
 ファルシオンは三人の顔を、順番に見つめた。
「どちらが良い」
 スランザールが答える。
「ヒースウッド伯爵の召喚がよろしいかと。領事が王都に召喚されたとあれば、二心のある者には王都の警告の意図が伝わりましょう」
 ファルシオンはスランザールの提案に、戸惑った顔をした。
「もし、ヒースウッド伯爵ではなかったら、伯爵のめいよを傷つけるのではないか」
「確かにその懸念はございます。ですが、確実だと判明するまで調査を行う時間が、今回はございません。可能性の高い所から確認してゆくのが大切です。ヒースウッド伯爵と並行して、他の三都市を所管する領事への確認も行います」
「――判った」
 ファルシオンはスランザール、ベール、それからレオアリスを見つめ、ややあって、気持ちを決めたように、息を吐き頷いた。





 指標石が震え、音にならない振動を放った気がした。
 一里の控えの館を端にして、百間ごとに置かれた指標石が、連鎖し次々と振動していく。
 振動は僅か数呼吸の内に、巨大な鳥が翼を広げるように半円を描いて西海との海岸線へ行き着き、波打つ海面に波紋となって広がった。
 ふいに――波が静まり、波紋だけが海面に線を刻んで行く。
 それは一瞬だけの事だったが、海が息を潜めたようにも思えた。
 すぐに波はさざめく頭をもたげ、海岸線に打ち寄せた。
 遠い波間に一つ、淡い光が浮かぶ。
 光は岸から辿り着いた波紋が自分の上を通り過ぎた後、ゆっくりと、海岸線に見える街の影に向かって進み始めた。




 指標石の振動はすぐに収まった。
 そして収まった時、ワッツやウィンスターの目前、一里の控えの館の二階大広間に、アスタロトや西方将軍ヴァン・グレック、そして、彼等の王の姿があった。
 ウィンスターが膝を着く。
「ご到着をお待ちしておりました、国王陛下。一里の控え、整っております」
「ウィンスター、久しいな。西端の護りの任、大儀である」
 ウィンスター、ワッツ、エメル、その場に出迎えた兵士達が一斉に顔を伏せる。王は輝きが薄れていく法陣を出て、露台へと続く正面の扉を開けた。
 風が王の衣裳や日除け布を撫でる。
 露台から館の庭と、館を囲む塀、その向こうに広がる緑の草原が望める。門のように立つ二つの指標石と、真っ直ぐ東に延びる街道。
 庭や塀周りに控えていた兵士達は、露台に現れた王を見て、次々に膝を着いた。
 騎馬のいななきが草原を渡る。
 ちょうど八刻。






 出立に備え、アスタロトはヴァン・グレックと共に一度、屋敷の周囲を確認する為に、西翼にある塔に登った。最上階まで登ると、物見窓から抜ける風が地上よりも強い。
 アスタロトは西の窓に寄り、風に黒髪を煽られるに任せ、広い窓枠に手をついて外を眺めた。五階までのさほど高くない塔だが、周囲に起伏の無い草原が広がっている為、遠くまで見通せる。
 定間隔で建つ指標石が、左右にぽつりと一つずつ、見える。目を凝らせば指標石は、初めの一つの向こうに小さくなりながら、九つ目を辛うじて視認する事ができた。その辺りで、およそ千間――、一里だ。
 この館と相対するように、正面に街の影が見える。
 水都バージェス。条約再締結のアレウス国側の儀礼地であり、かつての大戦の折に、最前線として最も激しい戦火を受けた地でもある。
 そして、その先にある青く濃い線――そこには西海、バルバドスの海域が緩い弧を描き広がっていた。
 一里の指標石が置かれた内側には遮るものは何もなく、この館からバージェスまでの動き、そして僅かながらにも西海沿岸の動きまでが、この塔から確認できた。
 敵軍の進攻を視認し、到達するまでの間に、王都との転位陣は充分機能する。あくまでも万が一の想定だが。
「異常はございませんね」
 ヴァン・グレックの言葉にアスタロトも頷いた。
 明るい陽射しの中を、風が渡り、緑の草原が輝きうねる。
 平穏な光景が占める一幕だ。
 再び遥かなバージェスの影を見れば、彼の地もまた陽炎のように揺らぎ、平穏にたゆたうかに見えた。
 アスタロト達は今から、あのバージェスを目指すのだ。そして海皇の使者がバージェスで王を迎え、使者と共に西海に入る。
(西海――)
 どんな世界なのか、今のアスタロトに想像できるのはただ、暗い夜の闇のような、閉じた空間だけだ。
 不安はある、けれど。
『そなた達の不安は、私が預かる』
 謁見の間で王の言葉を聞いた時、アスタロトの胸の内にさえ、自分が考えていた以上の不安があった事に気付いた。
 王の言葉がそれを軽くした事も。
 守護の役目を負いながら、守られている感覚。
 アスタロト達が王を護る事は、本質的な力の差を考えれば、形式でしかない。
 炎帝公と呼ばれるアスタロトとさえ、王は違うのだ。
 アスタロトは西側の窓を離れ、六角形の塔の中を中央の階段を回り込み、反対側の窓に立った。
 館の前から真っ直ぐ、東へ街道が延びている。やがて王都へたどり着くそれは、草原の中に細く消えていく。
(レオアリス――)
 王都は遠い。とても。
 王都出立の直前に交わした言葉が頭を過り、溜息をついた。
「公? 何か問題でも」
 素早く尋ねたヴァン・グレックへ首を振る。
「問題は無いよ」
 視線を逃がしてふと、庭に騎馬を整えている兵士達の間に、良く知った姿を見つけた。




「ワッツ!」
 アスタロトは塔の一階にある扉から庭に出ると、兵士達の中から一つ抜きん出ている頭を目指し、兵士間を擦り抜けて近寄った。兵士達が驚きと敬愛を顔に昇らせ、その場に膝をつく。
「やっぱりワッツだ、頭で判ったぞ」
 頭? と剃り上げた頭頂を撫でつつ、ワッツもアスタロトの前に膝をつき、敬礼を向けた。
「公、この度の大任、正規軍の一員として非常に喜ばしく」
「めんどくさい挨拶はいいよ」
 すぱっと言って、瞳を輝かせる。
「何か久しぶりだね、ワッツ」
「左様ですね。王都を発ってまだ三日程度ですが、王都の方とお会いすると随分久しぶりに感じます」
「まだ三日? そうかぁ。ひと月くらい経った気がするけど」
「公のお姿を拝見したのは、確か祝祭の、第一の出し物の折でしょう」
 アスタロトはワッツと頻繁に会う機会は無かった為、正確には十日振りくらいだろう。あの・・、被害者が続出したと正規軍内部からも恐れられた、西方第一大隊の出し物を視察した時以来だ。
「あ。そういや最後に見た記憶がマズかった。抹消してたんだった」
「記憶に残るように華やかに着飾ったンですがね」
 ワッツは笑ってアスタロトを見上げた。
「レオアリスとは連絡を取るようにしてます」
 気軽な案件ではないが、ワッツはそう言った。
 それから、アスタロトの瞳が目に見えて蔭ってしまった事に気付き、太い首を捻る。
「どうかなさいましたか」
「あ――ううん」
「悩み事ですかい。まさか喧嘩でも?」
「――」
 アスタロトは束の間、足元の芝を見据えていたが、さっと手を伸ばし、ワッツの腕を引っ張りながらキョロキョロと辺りを見回した。ワッツが兵士達に手を振ると、周囲の兵士達が素早く離れる。
「この場でよろしいですか」
「い、いいんだ。悩みとか、そんなんじゃなくて――。でも、まあ、ちょっと……悩み、かな」
「私でお役に立つなら、お聞きするだけでも」
 そもそもワッツを見て駆け寄った理由はそれが大きいのだろうと、ワッツは考えた。こんな場所で、任務に対する緊張に加え思うところがあれば余計、見知った顔は懐かしくなる。
「ワッツって、いい男だよね」
「良く言われます」
 アスタロトは口元を複雑に動かし、それから笑った。居並ぶ騎馬の間に視線をさ迷わせ、しばらく躊躇っていたが、思い切ったように息を吸い込んだ。
「私ねぇ、あいつに告白したの」
 ワッツはアスタロトの口にした単語の意味を考えた。
「は?」
「レオアリスに! 好きだって言ったの!」
「は? ああいや、……ほう」
(まだだったのか)
「そしたらあいつ、何て言ったと思う?!」
「何ですか」
「考えたこと無かったのは判るよ? はっきり言って剣士なんて主のことしか脳ミソにないもん。全部そうだろ、頭の中!」
 燃え上がっているアスタロトに口出しはしないのが賢明と、ワッツはやや温い笑みを浮かべて黙って次を促した。
「けどあいつねー、よりによってねー、帰ってきたらちゃんと話そうぜとか言ったんだよ?! 信じらんない! 話し合うとか、仕事じゃないっつの! アホ? バカ? 剣士?」
「ほう、そりゃズレてますな」
「でっしょー?!」
 拳を握り、前のめりにそう言って、それからアスタロトは憤りが頂点に達した結果急降下したのか、肺の奥にたまった空気をすべて追い出すように、深く息を吐いた。
「――いいんだもう。あきらめた。あいつホント、王が一番なんだから」
 レオアリスが何より大事に思うのは、彼の剣の主だ。剣士としての性質上、それは変えようがないのだろう。
 自分を納得させる為に口にした言葉をどれほど自分が理解していたか、今、この時点ではアスタロトは判っていなかった。
 ただ、自分が一番にはならない事が、判っているだけ。彼の剣の主がいる限り、ずっと――
 もし、何かが少し、違っていたら。
 始めの出逢いとか、それとも。
 草原を風が抜ける音がする。
 もし――
 アスタロトは思わず、振り払うように首を振った。
「公?」
「な、何でもない」
「ワッツ中将」
 横から声がかかり、ワッツは首を巡らせた。騎馬の間を縫ってエメルが近付き、数歩手前で足を止める。
「エメル殿。公、今回私と共に一里の控えを務める、右軍中将エメルです」
 エメルは跪き、アスタロトへ敬礼を向けた。
「ご尊顔拝謁が叶い、恐悦にございます」
「エメルか。しっかり頼む。一里の控えは西海にも国内にも威厳を示さなきゃいけないから、大変だけど、第七軍なら大丈夫」
「は! 有り難き御言葉」
 アスタロトは館へ視線を戻した。館は遮るもののない陽射しを浴び、美しい。
 それでいいのだと思った。
「そろそろ出立? 私も陛下のお側に戻るよ」
「騎馬はすべて整っております」
「ありがとう」




 アスタロトが館へ入り、ワッツは最後の確認に、王やアスタロト達が騎乗する為の軍馬の間を歩いていく。エメルはワッツの姿を視線で追い、それからアスタロトが消えた扉を見つめた。
 少し自分が興奮しているのが判る。炎帝公と、直接言葉を交わせるとは。
(やはり王都だ。ルシファーへの協力など、身を危うくするだけ。さっさと切らなくてはな)
 エメルは王の出立後、ワッツにルシファーやヒースウッドの企みを告げるつもりだった。
 何故知っているのかと問われたなら、ヒースウッドに裏切りを誘われたのだと言う。それは事実だ。乗った振りをして、状況を探っていたのだと言えば、今こうして話すのだから疑われないはずだ。
 今の内に態度を示しておく事が肝心だった。
 ヒースウッドが捕らえられた場合、彼はエメルが同志だと言うだろうが、先にワッツに情報を提供しておき信頼を得れば、後は何とでもやり過ごせる。
(奴も同志などと気味の悪い言葉を良くも使うものだ。境遇に酔う奴は単なる愚か者だよ。ルシファーにも盲目的に心酔して――まああれは、惚れているのだろうが。全く夢見がちな)
 息を吐き、辺りに響く軍馬のいななきと息遣いをまるで自分の想いを表わすかのように聞きながら、まずは王やアスタロト達の出立を見送る為、自分の持ち場である門へと向かった。




 軍馬達は非常にいい仕上がりで、王と共にバージェスへ向かう時を待っている。ワッツはアスタロトが騎乗する若い騎馬の鞍を確かめ、その鼻面を厚い手で撫でた。
 いよいよと思うと、ワッツでさえ胸の内に落ち着かないものを感じた。
(明日の正午に、陛下がお戻りになるまで――無風であって欲しいぜ)
 軽い羽音を耳が捉え、ワッツはあらかた音の主を想像しながら視線を巡らせた。
「カイか」
 案の定、黒い鳥が自分の足元に降りたのを見つける。ワッツは手を伸ばし、カイを腕に載せた。
 カイの運んできた伝言を聞き、ワッツは先ほど無風であって欲しいと願ったばかりだが、どうやら雲行きが怪しくなりそうだと考え直した。
(まさか、ボードヴィルが……いや、情報の出処を探れとヴァン・グレック閣下から指示されたんだ、はなからその可能性はあった)
 赴任してまだ三日目でしかなく、ボードヴィル全体の空気を掴めた訳ではない。疑わしい部分があると言えばあり、潔白だと言えばそうも言える。要はどちらの視点で見るか――見る事が必要か、だ。
(ウィンスター大将に率直に話すしかねぇ。おそらくレオアリスもその段階だと思ってんだろう)
 ただ、もしボードヴィルが関わっているとすれば、今ここにいる部隊ではないだろうと、それはワッツの勘だった。
(俺達を切り離したかな)
 この任務にワッツの左軍を推したのは、ヒースウッドだった。
 ルシファーは、あの城のどこかにいたのだろうか。
(薄ら寒いこった)
 ワッツは腕に載せたカイを、口元に引き寄せた。
「一里の控えに出たのは、左軍全軍と中軍の半数だ。ボードヴィルに残ったのは中軍の残りと右軍、ヒースウッド中将が留守を預かっている。それから、まだ悪いが復元情報の出処も、ヴィルトール達の消息も、情報は得られてねぇ。しかし、一里の控えは動けねぇが、ここでできる限りの情報を集める」
 王の出立を告げる喇叭が高らかに吹き鳴らされる。
 館の正面玄関が開き、王とアヴァロン、アスタロト達が姿を現わした。ワッツの手からカイの姿が消える。
 ワッツは王の騎乗する騎馬の手綱を引き、王の待つ玄関へと向かった。
 屋敷に掲げられた王旗と、屋敷の前面に立てられた正規軍軍旗が折から吹いた風に煽られ、一瞬激しい音を立てた。






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renewal:2014.05.25
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