一
そこは胸の奥から静かに、穏やかな温もりが広がっていく、そんな空間だった。
意識と身体を占めていた苦痛はどこか遠く、水のような淡いものを隔てたところにあって、時折何かの影が、長い夢の欠片に似て曖昧に揺らぎ、過ぎる。
深く、深く、深く──落ちて行く。
水のような、大気のような、柔らかなそれが身体を包み込んで、深く、
深く──
いつだったか、そうやって見上げた事があると、ふと思った。
空に揺れる、輝く丸い光。
手を伸ばしても届かない事がもどかしかった。
今は光はここにある。
自分を包んでいるもの、それがここにあるのなら、それならここにいたい。
ずっと、この場所にいればいい。
それでいい。
ふと影が心の奥底を掠める。
けれどそれが何なのか、掴もうとする前に、意識は柔らかな光の底に沈んで行った。
|