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王の剣士 七

<第三部>

第二章『冥漠の空』

十七

 アスタロトは柘榴の飛竜の背を滑り降り、黒く枯れた草地を数歩、踏んだ。
 地上ではなくまだ空の中に取り残されているように、足元は覚束おぼつかない。
 この時期は夕方の七刻であっても日没は遠く、空は薄青い天蓋に白々とした雲を浮かべている。
 その穏やかな空の下で、サランセラム丘陵は、黒々と枯れた草とそこに更に赤黒く染み込んだ血の跡を、それこそが自らに起きた事の証明だというようにアスタロト達の前に曝け出していた。

『投入されていた西方軍はほぼ壊滅――』

 伝令使から流れた無機質なタウゼンの声が耳に蘇る。

『ヴァン・グレッグは』

 何かの間違いであって欲しいと、そう心の中で繰り返しながらここまで来た。
 情報が混乱していてタウゼンも正確には把握しておらず、西方軍も被害はあったものの壊滅とまではいかないのではないかと。
 アルノーが傍らに立ったが、アスタロトは今、口にするべき言葉を見つけられずにいた。
「向こうの丘を確認してまいります」
 そう言ってアルノーはアスタロトの横を離れ、黒々と枯れた草を踏んで丘陵を降っていく。追いかけた部下のエイクがアルノーに並んで丘を降りながら、背後に立ち尽くしているアスタロトを気遣い声を抑えた。
「アルノー大将。西方軍は、やはり」
「この場だけを見て判断するのは難しいな」
 そう言いつつも、アルノーの声も面も、苦い塊を口に含んだようだ。
「伝令使を王都に戻した。折り返しタウゼン閣下から情報があるだろうが――」
 自分達がここで、何をするべきか。
 丘陵をただ見渡せば、どこまでも続く丘とその上に丸く被さる空は、何事も無い日常を表しているように思える。この場所で一日も経たない間に激しい戦闘があり、そしてタウゼンが使った『西方軍の壊滅』という言葉が表すほどに多くの命が失われたとは、そうした目を持って見ても俄かには信じ難かった。
「綺麗すぎる」
 呟いたアルノーの言葉に、エイクも神妙に頷く。
 そう、綺麗すぎるのだ。この戦場跡は。
 一つの遺体も、取り残された兜の一つも無い。
 ただ、伝令使が伝えてきたのはこの場所だ。
 そして紛れも無く、大地に染み込んだ血から立ち昇る、死と不吉な淀み。
 エイクが額に汗を滲ませる。
「どういう事でしょう。戦場はまだ他にあるのかもしれませんが」
 壊滅したのは別の場所ではないかとエイクは言外に言い、アルノーは
「そうかもしれん」
 と頷いたが、二人ともここがその場所だと、奥底では理解していた。
 アルノーは丘陵の上に立ち、緩やかな斜面を挟んだ先ほどの丘の上にアスタロトを振り返った。ここからでは表情は判らない。
 けれど、自分を責める想いがその上にあるのだろうと、アルノーは胸の内にその言葉を隠した。
「……周辺を確認し、それから一度王都へ戻るか」
 それ以外にできる事が自分達には無いと、そこは口には出さず、一度ぐるりと丘陵を眺め渡してからアルノーは再び来た斜面を降って行く。
 アスタロトの立つ丘を登りはじめた時だ。翼の音と共に、白頭鷲が再び、アルノーの前に降り立った。
 嘴から流れたタウゼンの言葉を聞くや、アルノーは草地を蹴りアスタロトへと駆け寄った。
「アスタロト様!」
 アルノーの瞳に浮かんだ光につられるようにアスタロトは二、三歩近寄った。
 アスタロトがアルノーの上に認めたのは、この戦場跡を眺めていたものとは違う感情だ。
「……どうしたの」
「タウゼン閣下からです。第五大隊ゲイツ大将が、エンデにいると」
「ゲイツ――」
 投入されていた西方第五大隊を率いていた。
 ほんの僅か、希望が射したように思え、そこにいた兵士達の面にも喜びが浮かぶ。
「行こう!」
 アスタロトは身を返し、そこで翼を休めていた柘榴の飛竜の首に手を当てた。
「まだもう少し飛んで欲しい」
 咳き込むような声に何を感じたのか、飛竜は素直に首を降ろし、背を低くした。





 アスタロト達がエンデに着いたのは、サランセラム丘陵を発っておよそ三刻後の事だった。
 既に日はとっぷりと暮れ、辺りは夜の闇に閉ざされていた。
 それでも上空からエンデの位置がすぐ判ったのは、瞬くような光が地上を埋めていたからだ。
 まるで夜の中の王都の輝く灯りに近い。
 その理由もまた、すぐに判った。
 もう何を見ても驚かないだろうと思ってたアスタロトは、しかしその光景を見て思わず呻きに近い言葉を零した。
「あれは」
 その先は音にならないまま、アスタロトは喉を締め付けられる感覚と共に地上を――そこに無数に揺らめく篝火を見つめた。
 あちこちでたかれた篝火、その傍の天幕や荷馬車、それから人、人、人――。
 エンデは西方第六大隊の軍都であり、大河シメノスとその支流に挟まれた三角州に、低い石積みの、だが堅牢な塁壁と共に築かれた人口およそ二万の城郭都市だ。
 二つの川を天然の堀としたエンデの街から、少し離れた場所には西基幹街道がシメノスに並走し、そして周辺には緑の農地が広がっている。通常ならば気持ちをほぐす穏やかな光景に違いない。
 だが今は、エンデ周辺は一面に、天幕や荷車、そして人々で埋め尽くされていた。
 夜目には明確には見て取れないが、揺れる篝火からもおそらく天幕の数は千を越し、そこにいる人々の数ならば、その四倍は超えるのだろう。
 難民の群れだ。
「周辺の農民達が村を離れてエンデに集まっていると聞いてたが」
 アルノーもまた、その先を飲み込んだ。部下の兵士達が眉をひそめ合う。
「サランセラムといい、ここといい、こんなにひどいなんて」
「ああ。俺達、王都にいて状況は判ってるつもりだったけど、何も見えてなかったのかもな」
 アスタロトはその言葉を聞きながら、唇を噛み締めた。




 夜の中、城門に架かる橋の上に降りた六頭の飛竜に、その周辺にいた難民達が気付いて横たえていた頭を持ち上げる。正規軍の兵が降りたのだろう、何かあったのかと、遠巻きに覗き込んでいる。
 城門を守る兵士等は唐突に降り立った飛竜に警戒を見せていたが、エイクが橋を渡って近付き一言、二言告げると、慌てて背筋を伸ばし、橋の中ほどにいるアスタロトへ敬礼を向けた。
「参りましょう。ゲイツ大将に会えるといいのですが」
 城門へと歩き出したアスタロト達の背後で、それまで彼等を運んで来た柘榴の飛竜が、布を張るような音と共に翼を広げる。
 はっとしてアスタロトは思わず手を持ち上げた。
 この飛竜を返してしまえば、ルベル・カリマとの繋がりは無くなる。
「――」
 途中で止まっていたその手を、しかし吐く息と共に下ろした。
 目的地に着いたら返す約束だった。
 今は夜で飛竜の鱗の色など見えないが、珍しい柘榴の飛竜をいつまでも留めておけば、あの里の事を他言しないと言う彼等との約束を違える事にもなりかねない。
 一頭、また一頭と柘榴の飛竜は空へ上がっていく。
 アスタロトを乗せていた飛竜が翼を広げかけた時、アルノーが腕を伸ばし、その手綱を抑えた。
「アルノー?」
「少し」
 アスタロトに応えた言葉か、飛竜を止める言葉か、飛び立とうとしていた飛竜は広げかけた翼を一旦戻した。
 アルノーは鞄から手早く小さな革袋を取り出した。入っていたのは布に包んだ墨の小瓶と、筒状に丸めた紙の束。紙を束ねる紐は鳥の羽根を加工した筆も紙と一緒に留めている。
 一枚抜き出した手のひらほどの紙を篝火の傍の欄干に広げ、アルノーは墨に浸した羽根先で、短く、何事か数行をしたためた。
 その紙を更に小さな筒状にし、自らが帯びていた剣帯を外すと、革に紙の筒を挟んだ。
 飛竜の鞍に括り付けられた雑嚢に収める。
「ありがとう。ここまで運んでもらえて助かった。カラヴィアス殿に、御礼を」
 柘榴の飛竜は朱金の虹彩の瞳をぱちりと瞬かせると、今度こそ翼を広げ、ぐんと一息に暗い空へと駆け上がった。
 南方の空へと、柘榴の飛竜の姿は瞬く間に夜に紛れ見えなくなった。
 アスタロトは瞳に残った紅いその色を束の間想い、それを瞼の奥に押しやると、城門へと橋を歩き出した。
「――ゲイツに会おう」




 足を踏み入れた広間にもまた、息を飲む光景が広がっていた。
 二十本の柱が支える二階までの吹き抜けのその広間は、吊り下げられた燭台や柱の灯りに照らされて、本来ならば圧倒する奥行きを感じたのだろう。
 しかし今はそこに簡易な寝台と、そして寝台すらなく床に延べられた寝具や布がずらりと並んでいる。
 その上に、負傷した兵達が横たわっていた。
 あちこちで苦痛の呻きが聞こえ、こんな時間だというのに狭い寝台や床に敷かれた寝具の間を医師や救護兵、治癒師が忙しく動き回っている。
「将軍閣下!」
 軍服の男が一人、狭い足元を気にしながら抜け、アスタロト達へと駆け寄った。右腕を胸に当て、敬礼を向ける。
「失礼致します! 第六大隊第七、第八小隊を預かります、少将ジノイと申します!」
「ジノイ――」
 迎えてくれた事に礼を言おうとした時、周囲の兵達から驚いた声が上がった。
「将軍閣下――?」
「まさか」
「アスタロト公爵だ……」
 それらは弱々しい呻きに近かったが、それでも強い希望を宿していた。
「炎帝公」
 無理やり身体を起こそうとする兵を、救護兵が押し留める。
 ジノイが恐縮を浮かべ頭を下げる。
「ご無礼お許しください、将軍閣下、本来ならば隊列と敬礼をもってお迎えすべきを」
「いい」
 素早く言って、アスタロトは周囲の兵士達に顔を巡らせた
「寝てて。皆そのままでいいんだ。ひどい怪我をしてるんだから」
 もっと早く来たかったけれど、とそう言おうと思ったが、それに続く言葉が思い浮かばない。
 そもそもアスタロトが初めからサランセラムにいたところで、できる事など何も無かったのだ。
「将軍閣下、こちらへ。ゲイツ大将がおられます」
 ジノイが横たわる兵士達の間を抜けて行く。
 アスタロトが歩いて行くと、兵士達の呻きの中に彼女の名を呼ばわる声がポツポツと混じった。
 これで救われたと――そう呟く声。
 アスタロトさえいれば、と。
「アスタロト様」
 先を歩いていたアルノーが、アスタロトを先に行かせて兵士達の視線をその背で遮った。
 ジノイは広間を抜け、一番奥の階段の前に、アスタロトを案内した。
「ゲイツ大将はこちらに」
 個別の部屋などではなく、三枚の衝立で囲っただけの簡易な仕切りしかない。
「大将御自身が、ここで良いと」
「容態は」
 ジノイは声を抑えた。
「切創や刺創をかなり負われています。治癒師による治癒を行なっていますが、手が少なく、兵達を先にと」
「――」
 アスタロトはぎゅっと唇を引き結び、衝立を見つめた。
「失礼致します。ゲイツ大将、アスタロト将軍閣下、アルノー大将が到着されました」
 アスタロトとアルノーは衝立の隙間から身を入れた。衝立の内側を、天井から鎖で吊るされた角灯の明かりや壁の燭台の灯りが、ぼんやりと浮かび上がらせている。
 ゲイツは寝台の上に身を起こしていた。
「ゲイツ!? 何やってるんだ! 寝てなきゃ」
 驚いたアスタロトが寝台の側に駆け寄る前に、ゲイツは寝台に手をつき、包帯に半分隠れた上半身を伏せた。
「申し訳ございません、閣下――」
 肺の奥から絞り出す掠れた声に息が詰まる。ゲイツが尚も身を伏せる。
「多くの兵を、預かりながら、それを失い、」
「ゲイツ」
「その上――、ヴァン・グレッグ将軍を――っ」
 寝台についたゲイツの腕が、薄い灯りの中でさえ震えているのが判る。包帯にはまだ新しい血が滲んだままだ。
「ホフマンも、グィードも……おめおめと、この身だけが」
「ゲイツ」
 アスタロトは寝台の上のゲイツの手の前に自分の手を置いた。
「ゲイツ、私は、お前だけでも生きていてくれて嬉しい」
 その言葉がどれほどゲイツの心を軽くできるのかアスタロトには判らない。
「まずは横になって、ゲイツ。これは命令だ」
 それでも身を起こそうとしないゲイツの面をじっと見つめ、アスタロトはその横に膝を降ろした。
「何があったのか、教えて」
「――」
 ゲイツはようやく寝台の背に身体を預け、食い縛った歯の間から長い息を吐いた。
「……我々は、サランセラムに進軍して以来、長く西海軍の、海魔の歌に、苦しめられていましたが――、三日前、歌を無効化する術式を、法術士団が完成させました」
 それは事態打開の兆しだと、アスタロトにもそう思えた。
 だがゲイツの言葉は重い響きを纏わせたまま、初めの戦勝を語り、そして。
 夜明けと共に現れた、もの言わぬ兵達の群れ――
「――死者の軍……」
 自分の呟きが現実には思えず、アスタロトは蝋燭の火が足元に投げ掛けた自分の影に視線を落とした。
 死者の軍。
 それが、ただ西海の兵なのではなく、ほんの少し前まで共にいた自軍の兵だなどと。
 同僚であり、或いは友人であり――
「そんな」
 ゲイツの語る内容は、アスタロトだけではなくアルノーの面をも強張らせた。
「戦友と、戦えと」
 小さく呟いたアルノーを見上げ、その握り込まれた拳に視線を落とす。
 その拳を一度解き、アルノーは寝台の反対側に回ってゲイツを見下ろした。
「ゲイツ殿。南方第一大隊のアルノーだ。状況は良く判った。まずは身体を戻す事に専念してくれ」
「アルノー殿……南方は、ケストナー将軍が、レガージュにおられるのだったな。今回の事を」
「ああ。お伝えする。貴重な情報だ、無駄にはしない」
 もし、とゲイツは荒い息の下で言葉を押し出した。
「もしあの軍が、王都にまで、到達したら――、王都は、混乱する」
「判っている。安心してくれ、王都は我々第一大隊が必ず守る。王都にはアルジマール院長もおられるからな」
「――彼は」
「彼?」
 ゲイツは何度か咳込み、深く息を吐いた。
「剣士――、近衛の、レオアリス殿だ」
 アルノーの視線が一瞬アスタロトを捉える。
「……彼は、」
「蟄居中なのは、判っている。だが、彼ならば、あのナジャルの脅威に、抗せるのではないか。将軍閣下と、お二人――、黒竜の時のように」
 アスタロトはゲイツに答える事ができず、揺れる瞳をゲイツに悟られないようこらえた。
 殿下もそれはお考えだろう、と、アルノーが返す。
「まずは養生を。兵士達には指揮官が必要だ。我々は王都に戻ってタウゼン副将軍にもこの状況をお伝えし、必ずや対策しよう」
 ゲイツは息を吐き、ほどなく眠りに落ちた。
 アスタロト達は衝立を出て、胸に溜まっていた息を吐いた。
 二階まで吹き抜けた広い空間でありながら、負傷した兵士達が所狭しと横たわっている為に、重苦しい雰囲気に包まれている。
 兵士達はそれでもアスタロトの姿を見ると、口々に喜びと安堵の声を上げた。
「アスタロト様」
「どうか、西海を」
「どうか」
「アスタロト様の炎があれば、ナジャルなど」
 その声を聴きながら、アスタロトは無言の内に広間の扉を出た。
 扉が閉ざされるまで、兵士達の期待と希望の篭った視線と言葉がアスタロトへ向けられ続けていた。
 扉の内と外ではあまりに違う冷えた空気が肌を撫でる。
 回廊状になった長い廊下で、アスタロトは立ち止まった。
 もし。
 もし、アスタロトがカラヴィアスを説得できていたら――
 話をした昨日の朝の段階で、共にあの谷を出る事ができていたら――
 西方軍が壊滅する前に間に合った。
 もし。
 傍らにアルノーが立つ。
「アスタロト様、我々はすぐにでも、王都に戻るべきと」
「……もう一度、ルベル・カリマに」
 アルノーは言葉を切り、アスタロトをじっと見つめた。その視線を感じながら、アスタロトは自分の言おうとしている言葉を探した。
 ナジャルの存在がある以上、戦えば戦うほど正規軍は、この国は追い詰められていく。
 本当はアスタロトに炎があればいいのだ。
 ルベル・カリマに頼るのではなく――レオアリスに負わせるのではなく。
 ゲイツや兵士達は本当は、何故アスタロトがもっと早く来なかったのかと、そう思っているのではないか。
 そう思って、当然だ。
「それは難しいと考えます」
 アルノーがやんわりと首を振る。
「でも」
「谷の飛竜はもう帰してしまいましたし、我々の飛竜であの谷に辿り着くのは困難でしょう。辿り着けたとしても、今度は受け入れてもらえるかは」
「――でも」
「改めて申し上げますが、まずは一度、王都にご帰還なさるべきと考えます。タウゼン副将軍閣下と、そして王太子殿下と、今後の方策を検討する必要があるでしょう」
「判ってる。でも」
 その先を続ける事はできず、アスタロトは首を振り、違う事を口にした。
「まだ帰れない」
「閣下」
「我儘で言う訳じゃない。まだバージェスの北方軍も、ヴィルヘルミナの東方軍も、顔を見せてない。目的は――私の本来の役目は、兵士達を力付ける事だった」
「それは」
 今は一層辛いのではないかと、アルノーはそう言いかけたのだが、その言葉を留めた。
「判ってる、時間は掛けられない。せめて一日だ。けど、あと二つ、ランドリーとミラーの陣中を回ってから帰ろう。皆疲れてるのに悪いけど」
「承知しました。我々はアスタロト様のご意思に喜んで従います」
 アルノーの後ろに並んだ兵士達も頷く。
「ありがとう、アルノー、みんな」
 そう言ってアスタロトは彼等の前に頭を伏せた。








 流れ落ちる滝の音が、深い谷に反響しながら立ち昇って来る。
 カラヴィアスは腕を組み、二つの岸壁に切り取られた青い空を見上げていた。
 川にも似たその細い空を、六頭の飛竜が次々降りてくる。昨日早朝にアスタロト達を乗せ、谷を飛び立った飛竜だ。
「御苦労――少し遅かったな」
 自分の傍に降りた飛竜の首に手を伸ばし、カラヴィアスはその長い首を撫でた。
 ザインが使った飛竜は明け方に戻っていた。
 ボードヴィルまでならばレガージュとの距離とさほど変わらない。切れ長の瞳を空へと向ける。
「長」
 鞍を外していたレーヴァレインが、鞍に留めていた雑嚢を手にカラヴィアスの傍に寄る。
「これが」
 レーヴァレインが差し出した銀の装飾を施された剣帯を手に取り、カラヴィアスは瞳を細めた。











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2018.11.18
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