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王の剣士 七

最終章

『光を紡ぐ』



 兵達の上げる歓喜の声が、舞い降りる飛竜を、その背にいるファルシオン等を迎えて包む。
 ボードヴィルにファルシオンが戻ったのは、もう夕刻に近い時間だった。
 西へ、太陽が傾いている。
 あのレガージュの海に、そして西海に、陽は沈む。
 ファルシオンは空を染めて沈む赤々とした太陽を見つめた。瞳の奥に光が刻まれ、散る。
 今日が終わろうとしている。
(こんなに、早い)
 昨日の早朝に始まった戦いは、あれほどにも長く感じたのに。
 過ぎていってしまうものを繋ぎ止めたいと――そこへ戻りたいと強く願いながら、それでもファルシオンは迎える兵達へ、顔を向けた。




 ボードヴィルに戻った飛竜の中にカラヴィアスの姿を見つけ、プラドは立ち上がった。
 砦城の中庭を、トールゲインやティルファング達と言葉を交わしながら歩いてくるカラヴィアスを待つ。ティエラがプラドの左腕に、とどめるように触れる。
 カラヴィアスはプラドの前で立ち止まった。プラドがその双眸を見据える。
「レオアリスは」
 一拍置き、静かな声が返る。
「――戻っていない」
 既に知っていた答えにも関わらず、プラドは自分の視線が厳しさを増したのを自覚した。
「貴方がいながら、何故だ」
 左腕に置かれたティエラの指に、ほんの僅か力が加わる。
 カラヴィアスの右横にいたトールゲインがプラドを見据え、一歩踏み出す。
「戦場を知り、ナジャルと戦った貴方が、同じ問いをするのか」
 プラドが視線を向ける。「何の話だ」
 トールゲインは構わずプラドを見据えた。
「我々もまた、氏族を三人失った。それ以上、どれほど負えと」
「いい、トールゲイン。私個人が手を貸した目的の半分は、ルフトの子の為だった。それが果たせなければそしりを受けても仕方がないな」
「私はそうは思いません」
 抗議するトールゲインに笑みを向け、カラヴィアスは再び歩き出すと、プラドの横で足を止めた。視線をプラドの右腕に落とす。
「お前も剣を失っていたな」
 カラヴィアスは腰の皮帯の小箱から、小瓶を一つ取り出した。親指ほどの大きさで、中にはとろりとした黄金の液体が入っている。
「使うといい」
 プラドは小瓶を左手で受け取った。束の間黄金の液体を見つめ、視線を上げる。
「これを使うのは俺ではない」
「それはそれで構わんさ。――プラド」
 改めて、二人は向き合った。
「剣を失ったままミストラを越えるのは、さすがのお前も困難だろう。ティエラにお前を背負わせる訳にもいかないだろうからな。しばらく我が里に逗留するといい」
「――」
「その代わり、お前の氏族が持つ情報をよこせ」
「情報とは?」
「あの地の戦乱も一つの方向に向かっているようだ。そうだろう? となれば、次の展開も考えられる」
 プラドはカラヴィアスの目の奥を見た。
「ミストラを越えては来られない」
「どうだかな」
 切り上げるように肩を竦める。
「いずれにしても、取り敢えずは身体を休めることだ。遠慮はするな」











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2021.9.19
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