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淡い黄金の光が室内を満たす。
それは王城の地下深くにあるこの部屋の、中央に浮かぶ球体から零れていた。
支えるもの一つなく浮かぶその輝く球面の奥から、波紋が音も無く、絶えず湧き上がり、黄金の光が丸い表面にさざめきを広げる。
球体は時折水を想わせ、光を想わせ、地を想わせ、空を想わせる。
これは恐らく、父王が創ったものだ。
だからこの場は、まだ、父王の穏やかな温もりに満ちている。
ファルシオンは長い間じっと、その光を見つめていた。
湧き上がる色は刻々と移ろい、淡い金から輝く黄金、そしてやがて黄昏色に変わり、そして仄淡い輝きに戻る。
「殿下――」
促す声にファルシオンは動揺にも似た激しい鼓動を覚え、それを堪えてもう一度――、もう一度だけ、そこに視線を向けた。
瞳を閉じた面がファルシオンに返すものは無く、指先はただ人形のそれのようだ。
けれど確かにここに居て、呼びかければすぐに、瞳を開けてファルシオンを見るのではないかと思われた。
ファルシオンは喉を震わせ、だが音になる前にそれを飲み込んだ。
掌の中に、冷たい石の飾りを握り込む。青い石は今は鈍くくすんでいる。
それに呼びかける事をファルシオンは躊躇い、けれど縋るように握り込んだ手を額に当てた。
ずっとここに居たい。
ここを離れたくない。
地上に戻るのは――辛くて、怖い。
ぎゅっと唇を引き結び、面を上げ、留まろうとする足を引きはがし、ファルシオンは金色の光の揺蕩う部屋から昏い廊下へと出た。
背後で扉が閉ざされる音が、暗い廊下に鈍い音を響かせる。
長い廊下を渡り、幾度も階段を上がる。
永遠に続くのではないかと思われた、最後の階段を上がると、光を滲ませる入口から居城の一角に出る。
王城北面六階にある、父王の館だ。扉は温室の奥まった一角の壁に組み込まれていた。
ファルシオンは顔を上げ、六角形の温室の四方に硝子を張り巡らせた壁と、その高い天井を見た。
それまでの暗い世界はまるで嘘だったかのように、背後に置き去りにされた。
太陽は既に西に傾き、一日の終わりを告げようとしている。
枯れた陽射しが、辺りを淡い琥珀色に染めていた。
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